1.はじめに(Eコマースのトレンド)
これから通関士を目指す人には知っておきたいことがある。
それは、Eコマース(電子商取引)が隆盛を極めて、貨物が小口化しているトレンドがある。
貨物が小口化されることにより、従来の通関業務よりも、関わるプレーヤーの数が多くなり、特に航空輸入貨物において、件数が激増している。
当然、通関件数(輸出入件数)が多くなれば、必然的に通関士の需要も多くなる。
実態は、従来の貿易携帯から小口化、Eコマース(EC)化が拡大している。
既存の通関士試験対策では、EC貨物の手続きについては、深掘りしているテキストが少ない。もちろん、通関士の根源となる「一般通関申告」のしくみや手続きを知らないと、スタートラインには立てない。
ただし、通関士の将来を考えると、貨物の小口化、EC化に対応すべき勉強は避けて通れない。
逆の意味で、これはチャンスでもある。
変化に則した人材を求められる昨今、EC貨物、BtoCモデル、SP貨物、MF通関、FS貨物…といった海千山千の言葉を耳にしても、怖気つかない「引き出し」を身に付けておこう。
2.越境EC・言葉の整理
越境ECを扱うビジネスに関しては、クライアントも良く実態をわかっていないことが多々ある。
地味ではあるけれども、わからない言葉は、「わかったつもり」にならず、その場で相互理解を図るべき、踏みとどまって考えてみよう。
「EC貨物」とは、従来の為替取引に代わり、ネット上で簡潔する決済処理であり、個人顧客の関与の度合いが、従来の「商社を介した」貿易取引とは異なることである。
平たくいえば、パソコンやスマホで「ポチっと」買物をすれば、それが海外から取り寄せることになれば、「EC貨物」の起算となる。
「SP貨物」とは、スモールパッケージ貨物(小口貨物)の総称であり、輸出者の戸口から輸入者の戸口まで(いわゆる」ドア・ツー・ドア」)国際エキスプレス便、国際宅配便を利用する貨物のことで「小口急送貨物」と呼ばれる。法的な位置づけはないので、ここでつまずくことが多い。
ビジネスの相手が「SP貨物」と口にしいたら、相手がどんな位置づけで行っているのかを確認しておくと、後々の誤解が軽減される。
輸入貨物の場合、課税価格が1万円以下の無条件免税貨物の簡易申告がが「マニフェスト通関(MF通関)」と呼ばれる。
SP貨物が、貨物の輸送形態に着目した言葉に対して、MF通関(MF貨物)とは、通関の手続きに着目した言葉である。
だからSP貨物のすべてがMF通関を意味するわけではない。
SP貨物ついて、たとえば、輸入で課税価格が1万円以上であるとか、他法令の取得を擁する貨物なのは、MF通関ではなく、一般通関ということになる。
特に、先方が「BtoC」と口にしたら、SP貨物のこと、MF通関のことといった話の筋を見失わないようにしよう。
「通販貨物」というのは、ECサイトを通じて、海外の販売者により販売され、国内の消費者に直接配送される貨物という。
輸入者(国内の消費者)に直接配送される意味で、BtoC取引、すなわちビジネスとCONSUMER(消費者)を直接結び付けるサービスのことである。
よくフレームや仕組みをわかっていない人が、安易に「BtoC」と口にすることがあるので、かならず確認しておこう。
更に「FS貨物」(フィルフィラメント貨物」について。一義的には「FS利用貨物」と解釈され、輸入後にEC運営事業者等が提供するフィルフィラメント・サービスを利用して、消費者に販売される貨物である。ちなみに、「フィルフィラメント・サービス」とは、入庫、検品、保管、流通加工、梱包、出荷といった物流業務に加えて、決済処理やカスタマーサポートなどECに必要な業務を一部か全部を代行するサービスである。
3.まとめ(通関士の役割)
通関士とは、輸出入者に代わり、税関に対して通関申告を行う者である。
EC取引がトレンドとなる今、激増する通関申告数に対応するため、ますます重要な役割を担う存在となっている。
貨物検査の立ち合いや関係機関からの問い合わせに関しても、迅速かつ誠意ある対応が求められる。
EC取引が進むにつれ、通関業務に関して個人が関わることも多くなるし、貿易形態の変化も著しい。こうした変化の潮流に対処するためには、まずは「立ち位置」が何であるのかを、明確にしておく必要がある。
越境ECは、はじまったばかりである。
誰もが明確な答えを知っているわけではない。
ただし、ビジネスやサービスを利用するに際して、相手側(顧客にせよ、関係機関にせよ)「ボタンの掛け違い」だけは避けたい。
そのためには、難しい制度や用語を、簡単にわかりやすく説明できる能力が、これからも必要不可欠である。
この意味で、わかりにくいことを、わかりやすく解釈することは、人間の強味であり、AI(人工知能)は不慣れな「実に人間的な」スキルである。
だからAI技術が進展しても、通関士が「お払い箱」になることはないだろう。
ビジネスに人間が介在する以上、そこには「ヒューマン・スキル」が必要であるし、これからも通関士の専門性は、決して錆びることはない。